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黒い十字架-Schwarz Kreuz-というサイトに設置しているブログです。 内容は黒い十字架の看板キャラによる小話などです。

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Capriccio 5.瘴気
 アロイスはあの少女と仲良くなるために聖獣を懐柔することにした。
 そのためにクラオトを持って森に向かう。










 アロイスが開きっぱなしだった特殊空間を閉じた。
 そして荷物の中から革袋を取り出した。
 その革袋にはびっしりと紋様が書き込まれている。
「何、それ?」
「瘴気を遮断するための袋だよ」
 町の中でも瘴気が吹く時世だ。
 油断するとすぐに枯れてしまう。
「持ち出すのも大変なんだ」
「そうだよ。繊細だからね」
 革袋を床に置いて形を整える。
 そんなアロイスの姿を見ていたヴァルターは先ほどの言葉を思い出してどうしても疑問に思った。
 答えてもらえるとは限らない。
 でも、答えてもらえるかもしれない。
 それは尋ねなければわからない。
「ねぇ、ロイ」
「なんだい? ヴァルター君」
 作業の手を一時止め、ヴァルターの方を見た。
「ロイは精霊と仲が良いんだよね?」
「そうだね」
 それに深く頷いた。
 否定する要素はない。
「じゃあ……」
 ヴァルターは一瞬迷うような素振りを見せた。
「なんだい?」
「ロイはグリモワールがなくても魔法使えるの?」
 それを聞いたアロイスは瞠目した。
「ちゃんと覚えていたようだね」
 やはりヴァルターは馬鹿ではない。
「そうだね。結論からいえば…………使えるよ」
 アロイスはクラオトを袋詰めを再開しながら答えた。
 こうして持ち歩けば枯れることはない。
 町の中ならまだしも町の外に出せば一気に枯れてしまう。
 それでは意味がない。
「やっぱりロイって凄いんだ」
 気難しいという精霊と仲良しで力を直接借りられる。
 アロイスがハイエルフであるとはいっても、やはり彼は規格外なのではないか?
 そう思いながらヴァルターはアロイスを見た。
 きっちりと革袋の口を紐で縛り密閉する。
 隙間がないのをしっかりと確認した後、大事そうに抱えた。
 植物を乱雑に荷物の中にしまうわけにはいかない。
 雑に扱うと葉が傷む。
「ふふ……じゃあボクはこの辺りにいる聖獣と仲良くなるために出かけてくるね」
「あれ? 精霊じゃない……のか」
 言いかけて気付いた。
 アロイスが持って来たのは葉が茂っているだけのクラオトだ。
 精霊が好むのは花や実……
 ならばこのクラオトでは駄目だろう。
 花は咲いていないのだから。
「あの子は聖獣と仲が良いみたいだからね」
 周りから攻めていこうというわけだ。
「ああ、うん。行ってらっしゃい」
 部屋の扉に手を掛けたアロイスが振り向いた。
「ヴァルター君はどうする?」
「え?」
 そう尋ねられて首を傾げる。
 ついて行っても邪魔になるだけだ。
 聖獣は人間を嫌っているのだから。
 だが、アロイスの言いたいことはそれではなかった。
「ここ、レジェーアシュタットの町はそこそこ広い町だから探せば仕事ぐらい見つかるだろうけど……」
 そしてヴァルターは自分が背負っている恐るべき金額の借金を思い出した。
 アロイスのように魔霊を相手にして戦うような真似はまだ出来ないが、魔獣ならば斃せる。
 ここは少しでも借金を減らすために仕事を探しに行くべきだろう。
 そう思いヴァルターも立ち上がった。
「仕事してくるよ」
「そう。気をつけてね」
「大丈夫。魔獣相手にしか出来ないから」
 自分の力量はわかっているつもりだ。
「それでも、だよ。まだ慣れてなさそうだしね」
「それは確かに」
 機嫌を損ねないように使うのは案外難しい。
「ロイにはこんなことを言う必要なんてないんだろうけど……」
「ん?」
「ロイも気をつけてね」
 パチリと瞬きする。
 そして改めて思う。
 究極のお人好しだと。
 今まで自分に対してそんな事を言って来た者なんていない。
 笑顔が零れた。
「ありがとう」
 アロイスは思う。
 やはり自分の目は間違っていなかったと。
 ヴァルターと一緒に部屋を出る。
 きちんと鍵をかけヴァルターに渡した。
 アロイスが帰るのはヴァルターよりも後だろう。
 そう思って、だ。
 それに例えアロイスの方が早かったとしても下の食堂で時間を潰せばいい。
 ヴァルターは宿屋の店員に話を聞きに行った。
 酒場の場所などを聞くためだろう。
 ヴァルターの事は心配ない。
 中々腕も立つようだし、彼は魔獣だけではなく盗賊の討伐もしている。
 こういう町には必ず暗部があるものだ。
 仕事が全くないなどということはないだろう。
 アロイスはそのまま宿の外に出ると、町の外に向かって歩き出した。
 最初にエルフの少女に会った方向だ。
 
 
 
 
 町の外に出る。
 相変わらず空気が悪い。
 町の外はそれが顕著だ。
 町の中はまだ空気が綺麗だが、外となるとやはり悪い。
 空気が不味いというわけではない。
 悪いというのは瘴気にまみれたこの空気のことだ。
 町を離れて森の中に入るとそれがよくわかる。
 魔獣の放つ悪しき瘴気が世界を汚染している。
 昔は聖獣が何とかしてくれた。
 しかし、今はそれがない。
 空気は汚れる一方だ。
 だから人は町の外に出れば必ず瘴気に中てられる。
 普通の人がそれから逃れる術はない。
 ヴァルターは平気で町の外を歩いていたが、彼はああ見えてかなり瘴気への耐性が高いのだろう。
 そうでなければ彼のような生活は出来ない。
 まぁ最も、今は平気だろうが。
 なんせグリモワールには瘴気を浄化する能力がある。
 装備者を瘴気から護ってくれるのだ。
 だからアロイスは瘴気の影響は全くない。
 そもそも精霊と仲の良いアロイスは加護が強いのでグリモワールがなくとも影響は受けない。
 風が吹く。
「この辺りなら大丈夫そうだね」
 適度に町から離れている、森の中。
 ここならば聖獣たちが集まって来たとしても危害を加えられる恐れはない。
 アロイスはクラオトを木の根もとに置くと、大きく伸びをした。
 そして言葉を紡ぐ。
〈其は悠遠の扉……日は嘆きのうちに世界を拒絶……守護せよ――〉

   ――鏡守り。 

 現れたのは金色の透明なガラスのような素材で出来たヴァイオリンだった。
「さて、来てくれると…………いや、気に入ってくれるといいんだけどね」
 そう呟きながらゆっくりと構え、音を奏で始める。
 周囲に音が満ち始めた。
 風に負けない力強くも繊細で優美な音が奏でられる。
 空気が変わった。
 風に乗り音が森の中に響いて行く。
 アロイスはしばらく演奏を続けた。




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