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黒い十字架-Schwarz Kreuz-というサイトに設置しているブログです。 内容は黒い十字架の看板キャラによる小話などです。

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Capriccio 4.魔獣と魔霊
 不協和音も四話目。
 どこまでもマイペースでお金持ちなアロイスと貧乏人なヴァルター。
 仕事の見つからないヴァルター。
 それを暢気に見守るアロイス。
 そんな二人がちょっとした危機に直面する。










 ヴァルターは目に見えて落ち込んでいた。
 はっきり言って自覚がある。
 自分が運に見放されているという自覚だ。
 シュン――としている
 それを見たアロイスはぽつっと言った。
「自覚があるんだ」
 そんな話をしている間に料理が運ばれてきた。
 それを食べ始めるアロイス。
 ヴァルターも食事を開始する。
 こんな田舎で出される料理にしてはなかなか美味しかった。
 そう思いながら食事をしていると、なんか騒がしくなった。
「なんか外が騒がしいような……」
「何かあったのかな?」
 そう言いながらも食べる手は止めないアロイス。
 周囲の状況に興味はないのだろうか?
 ……なさそうだ。
 だが気になってしょうがないヴァルターは宿の店員に尋ねた。
「何かあった?」
 それを聞いた店員は表情を曇らせた。
「はい。あの、村の中に魔獣が出たとか……」
「村の中に!?」
 こういう小さな村は大きな都市と違って結界が張られていない。
 そのため、稀に村の中に魔獣が入ってきてしまうのだ。
 無論そういうときのための軍警だ。
 だが心配なヴァルターは外に出ようとした。
「待ちなよ。ヴァルター君」
 それを食べ終わったアロイスが止める。
「でも……」
「キミ、丸腰で行くつもり?」
「あっ」
 アロイスに指摘されて思い出した。
 鎧は身に着けているが、剣は部屋に置いて来てしまった。
 ヴァルターは慌てて部屋に戻った。
「騒がしい子だね」
 そう言いながらもアロイスも部屋に戻った。
 アロイスが二階に上がり廊下を歩いていると部屋からヴァルターが飛び出してきた。
 そして部屋の扉を閉めることなく宿の外に向かった。
 アロイスはそれを全く気にすることなく部屋に戻ると、上着を身に付けた。
 そして窓から外をうかがった。
「あそこか」
 アロイスは魔獣の姿を認めると部屋を後にした。
 
 
 
 
 アロイスよりも一足早く魔獣の元に向かったヴァルター。
 そこには村に駐在している軍警がいた。
 そして魔獣に攻撃をしている。
 さすがに慣れたものだ。
 それをじっと見ているとそこにアロイスが現れた。
「よくあることみたい」
「よくあること?」
「そう」
 どうやらアロイスは村人に話を聞いてきたようだ。
「最近何故か増えてるらしいよ」
 物騒なことだ。
「やはり辺境だから……」
「それは違うと思うよ」
 ヴァルターの言葉をキッパリと否定した。
「もっと厄介なものかもしれないし」
 アロイスは少し目を伏せてそう言った。
「厄介なもの?」
 アロイスはそれ以上は何も言わず軍警と魔獣を見ている。
 そしてヴァルターは気づく。
「そう言えばロイ、なんでこんな物騒な所に来てるんだよ!」
「あ、気づいた?」
「気づいたじゃないよ!!」
 相変わらずヴァルターのツッコミが冴える。
「軍警もいるからなんの問題もないよ」
 まあ確かに見た所魔獣はもうすぐ軍警が倒しそうだ。
 だがそういう問題でもない気がする。
「ほら、魔獣は軍警が倒したし」
 ヴァルターが振り向くと確かに戦闘は終わっていた。
「危なくないし」
 魔獣は消えている。
「さ、帰――」
 そう言いかけたアロイスの表情が強張った。
「ロイ?」
 声をかけたヴァルターも気づいた。
 空気がピリピリしている。
「な、なにが――」
「来る――!!」
 アロイスの言葉通り今まで魔獣がいた場所に黒い霧が集まりだした。
 そして形を作る。
「な、なに、あれ!?」
 ヴァルターは今しがた現れたモノに驚きを隠せない。
「あれはこんな所に現れるようなモノじゃないんだけどね……」
「ロイはあれが何だか知ってるの?」
「そりゃあ知ってるよ」
 アロイスは黒い霧に斬りかかる軍警を見て眉をひそめた。
「あれはマズイね」
「え?」
 スルリと剣がすり抜けた。
「なっ――」
「あれは〝魔霊〟」
「魔霊!? あれが!?」
 ヴァルターは勢いよく影のようにユラユラと揺らめく黒い塊に目を向けた。
 魔霊は魔獣と共にこの世に撒かれた災厄だ。
 ただ、魔霊は魔獣よりも数が少ない。
 なので魔獣ほど遭遇する機会はない。
 そのため、知らないものも存在するのだ。
 ヴァルターも実際見たことはないようだ。
 魔獣は普通の攻撃でも倒せる。
 だが、魔霊は――
「魔霊に物理攻撃は効かない」
 アロイスの言葉通り軍警の攻撃は全く効いていないようだ。
「魔霊を倒すことが出来るのは魔法使い、魔術師、魔導師だけ」
「でもこんな田舎に魔法使いなんて――」
 ヴァルターの言うとおり、軍警に魔法を使える者はいないようだ。
 でなければ武器で攻撃しようなどとは思わないだろう。
「魔法使いたちでなくてもグリモワールがあれば良かったのに」
 さすがにこんな辺境では使える者はいないようだ。
「グリモワールって、魔法使いが必ず持ってるっていう武器でしょ?」
「まあ、そうだね」
 大きな街では軍警がグリモワールを持っていたりするが、こんな辺境では無理だ。
 まああんなものに襲われることを前提としていないのだろう。
 確かにこんな何もないところに魔霊が現れるのも珍しい。
「そんなこのままじゃ……」
「彼らじゃなす術はないだろうね」
 それを聞いたヴァルターは長剣を抜いた。
「それでは倒せないよ」
「それでも……オレは……」
「……ォゥゥゥゥゥォォォァァァ――――――――」

 いきなり衝撃波が襲った。
 魔霊の音にならない声が襲いかかる。
 その攻撃で軍警は全員吹っ飛ばされた。
 遠くにいるアロイスとヴァルターにも襲いかかって来る。
 バキッ!

「げっ――」
 二人は吹っ飛ばされなかったものの、ヴァルターの長剣が折れた。
 今の攻撃はそれほどの威力があったということだ。
「諦めなよ、ヴァルター君」
「でも!」
 アロイスはヴァルターの肩にそっと手を置いた。
「ただの剣ではあれに傷一つ入れることは出来ない。見ていてわかるでしょう?」
 確かにアロイスの言う通りだ。
 だが、それでは……
 ……………………この村は全滅してしまう。
 ヴァルターは自分の不甲斐なさに歯噛みした。




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