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黒い十字架-Schwarz Kreuz-というサイトに設置しているブログです。 内容は黒い十字架の看板キャラによる小話などです。

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Capriccio 10.実地教育
 アロイスは馬車で移動する気がまったくなかった。
 ハイエルフは魔法は得意だがそれほど体力自慢の種族ではない。
 それが一般的なハイエルフ。

 アロイスは一般的なハイエルフからは程遠かった。
 山道も難なく歩く。

 始まりの書、最終話。










 宿に戻ると辺りは随分と静かだった。
「結構時間が経っちゃったね~」
 寝よ寝よと、アロイスは上着を脱いでハンガーにかけるとベッドに潜ってしまった。
 いろいろあって疲れたヴァルターも鎧を脱いでベッドに潜った。
 疲れたのですぐに睡魔はやって来た。
 
 
 次の日。
 朝食を食べた後、アロイスのお金で山登りのための装備を整えた。
 商業都市ヘーゼルシュタットに行くためにはレジェーアシュタットの町を通る。
 そのレジェーアシュタットに行くために山を越えなければならない。
 そのための装備だ。
 勿論、徒歩だ。
 アロイスには馬車に乗って移動するという感覚はないらしい。
 そのため、情報収集もしっかりする。
「なんで歩き?」
「それは勿論慣れるためだよ」
「慣れる?」
「グリモワールにね」
 そう言われてしまえばしょうがない。
 元々ヴァルターには牛車に乗れるほどのお金もない。
 アロイスが歩きたいというならそれに従うしかない。
 ――と、いう訳で山道を歩くことになった。
 
 
 クーヴェンドルフに来てから三日後、村を後にして山道に入った。
「ロイって歩くの好きなの?」
「うん? 別に。何故?」
「……じゃあ魔獣を退治するため?」
 そう尋ねられたアロイスは少し困った表情をした。
「う~ん……ボクが歩くのは魔獣を退治するためというより、別の理由があるんだよね」
「別の理由?」
「そう。その理由のために馬車に乗って移動するわけにはいかないんだよ」
 ヴァルターに言えないような理由があるらしい。
「……今は言えないけど……そうだねぇ…………いずれ知る時がくるよ」
「ホントに?」
「うん。だって、ヴァルター君、ボクにした借金、すぐに払えるのかい?」
「…………」
 無理だ。
 無理に決まっている。
 だって、グリモワールは国家予算並みの値段がした。
 すぐに払えるはずがない。
「魔獣を倒しても大した金額にはならないよ。それはキミが一番よく解ってるよね?」
「うん」
「借金を返すためには魔霊を斃すしかない。でも、魔霊はこんな田舎には出ないし、都心で出た場合はキミのような初心者じゃなくてベテランが斃しちゃうからね~。なかなか機会はないよ?」
 それを聞いてヴァルターは落ち込んだ。
 斃さないことにはあの莫大な借金を払えない。
 幸い、アロイスは無利子の出世払いを許してくれた。
 だから自分のような貧乏人にグリモワールが持てるのだ。
 アロイスの行為がなければ今頃野垂れ死にかもしれない。
 そう思うと背筋が凍るようだった。
「魔霊は強いよ。ボクがこの前倒したのは本当に小者。もっと強いのはあんなに簡単に斃せない」
「あ、あれで小者って――」
「魔霊は強くなればなるほど、より人間に近づく……」
「小さくなるの?」
「そうだよ。でも、内包している力は大きい魔霊なんかとは比べ物にならない。動きも素早くなるし、知恵も回る」
「え、それって――」
「だから今だに魔霊は消えない。強い魔霊はそう簡単に斃せないんだよ」
 それにそう簡単に姿を現わしたりしない。
 だからこそ、厄介なのだとアロイスは呟いた。
「ロイでも、無理なの?」
 それを聞いたアロイスは渋い顔をした。
「う~ん……全力でいけば斃せるけど――」
「斃せるんだ」
 やはりアロイスは凄い。
「でも基本的に周囲に誰もいないことが条件かな」
「え?」
 今、凄いことを聞いた気がする。
「ボク、手加減って苦手なんだよね」
「え? あの、それって――」
「だから全力出すと、つい、周囲も巻き込んじゃうんだ」
 要するに周囲の人間の安全は保障されないらしい。
 アロイスはヴァルターが思っている以上に戦闘能力は高いようだ。
 絶句しているヴァルターの背中をバンッ――と叩く。
「それが魔導師というものだよ、ヴァルター君」
「そ、そっか……」
 あの程度の戦いでアロイスの実力など推し量れないだろう。
 まぁ、一緒にいるのだからアロイスが戦っている姿を見る機会などたくさんあるだろう。
 そう思ってヴァルターはこの会話を終了しようとした。
「いるね」
 急に立ち止まったアロイスが呟く。
 言われて感覚を研ぎ澄ました。
 こんな山道で出てくるのは賊か魔獣だけだ。
 盗賊の気配は感じない。
 なら――
〈世界に仇為す熱き炎……全てを灰燼に帰す蒼炎の舞……断絶せよ――〉

   ――焔裁き!


 ……現れるのは、魔獣だ。
 アロイスはヴァルターより気配を察知するのが上手いようだ。
 ホント、見た目によらないとヴァルターは思う。
 そして、アロイスの言葉通り――――出た。
 両手で剣の柄を握りしめ、魔獣に挑む。
 そんなヴァルターにアロイスは助言した。
「ヴァルター君、グリモワールを喚んだ時のことを覚えている?」
 緊迫した状況とは裏腹に、アロイスは軽く魔獣の攻撃範囲外に避けながら告げた。
「ええ!? ちょ――それって今必要なこと!?」
「必要だよ。不要な事をボクがこんな状況でいうはずがないじゃない」
 そう言われても、ヴァルターにはまだアロイス=ヒルト=リーフェンシュタールという人物がよくわからなかった。
「覚えているかい?」
「えっ――あ、覚えてるけど――」
「なら話は早い。集中して、波長を感じて――」
 言われたとおりにグリモワールに意識を集中させる。
 
 剣が熱くなった気がした。
 
「そうだね……炎をイメージして――」
「炎?!」
 困惑しながらもそれに従うヴァルター。
「全てを燃やす紅蓮の炎……」
 アロイスの言葉が、イメージを確かものにした。
 すると――
 
 剣から紅蓮の炎が噴き出した。
 
 一瞬にして剣が燃え上がる。
 だが、不思議と熱くはない。
「焔裁き……炎の属性を持つ大剣…………それはキミを傷つけることはない」
 それは、アロイスに言われるまでもなく、わかっていた。
 ヴァルターは炎をまとった剣を構え、魔獣に斬りかかった。
 炎が魔獣を蹂躙する。
 斬り口から一気に燃え上がり、跡形もなく消してしまった。
 呆然と手元のグリモワールを見つめる。
 もう炎は治まっている。
「こ、これが……」
「そう……グリモワールだ」
 ハッとしてアロイスを見つめた。
「物理系のグリモワールにはそれぞれ固有の能力がある。それは〝焔裁き〟。炎をまとう剣」
「炎――」
「キミと焔裁きの波長……意識を一つにすればするほど、グリモワールはそれに応え、威力も上がり、自在に炎を操れるようになる」
「オレと……」
 手元のグリモワール……焔裁きを見つめた。
「だから、すぐに、簡単に、扱えるわけじゃない。時間をかけて慣れ、操るしかない。グリモワールは生きている。キミの願いが強ければ強いほど、グリモワールはそれに応える」
 アロイスがグリモワールに慣れろと言った意味がわかった。
 これは、ただの剣ほど簡単に振れない。
 それが今の戦闘で十分理解出来た。




 

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