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黒い十字架-Schwarz Kreuz-というサイトに設置しているブログです。 内容は黒い十字架の看板キャラによる小話などです。

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Capriccio 1.少女
 数人の男たちに囲まれ暴言を吐かれている少女。
 お人よしのヴァルターがそれを放っておくことなどできなかった。
 そのお人好しぶりに溜め息も出るが、それが彼の良いところだ。

 傍観する気でいたアロイスだったが、あることに気づく。
 それに気づいたとき、アロイスもその少女に関わる決意をする。

 聖獣の書、始まり――










 無事にレジェーアシュタットの町に到着した。
 途中で何度も魔獣に襲われたが、全て倒した。
 勿論、アロイスは見ているだけだった。
 倒したのは全てヴァルターだ。
 グリモワールを上手く扱えるようになるための実践訓練だ。
 上手く扱えるようになるためには実践あるのみ!
 と、アロイスに焚きつけられたためだ。
 それはヴァルターも同感であったため、言われたとおりに戦っている。
 それでも、なかなか上手くグリモワールを扱えない。
「グリモワールって難しいね」
 思わず溜息と共に言葉が漏れる。
 ヴァルターは魔法は使えないからグリモワールの用途は武器としてだけだ。
 武器なんだから今まで使っていた剣のように扱えばいいのかと思っていたがそうでも、ない。
 雑に扱うと重くなるというか動かしづらくなる。
 要するに機嫌が悪くなる。
 これが生きている武器の難しさだ。
 ただ振り回すだけでは駄目。
 グリモワールと意識を通わせなければならない。
 それがどうにも難しい。
「当然だよ、ヴァルター君」
「ロイ」
 何当たり前なことを言ってるんだと呆れられる。
「グリモワールはちゃんと扱えるようになるまで最低でも三年はかかるんだよ」
「そ、そんなに――」
「だから一度や二度でコツがわかるはずないじゃない」
 アロイスはスッパリと言い切った。
「特に魔法に関わり合いのないものは大変だね」
「やっぱりそうなの?」
「そうだよ。炎を出す感覚が掴みづらいんじゃない?」
「うん……確かに――」
 わかりにくい。
「魔法を扱う者たちだってそう簡単に扱えないよ?」
「そうなんだ」
「最初は誰でも初心者だからね。でも、魔法師・魔術師・魔導師になりたいと思ってる人たちは魔法が使えなくても精神修行だけは行ってるから今のヴァルター君よりはマシなんだよ」
 確かに、魔法はグリモワールがなければ使えない。
 アロイスは精霊に好かれれば使えると言ったが、そんな人間がそういるわけもないだろう。
 だからこそ、魔法を扱うものたちは優遇される。
 グリモワールという触媒の存在が狭き門にしていた。
 特に、国家予算並みの金額が――
「オレも精神修行したらマシになるかなぁ」
「ヴァルター君が?」
 意外そうな顔をされた。
「変かな?」
「う~ん……」
 はっきりとは言わず微妙な顔をしている。
 無駄なら無駄だとはっきりいってくれても構わないと、ヴァルターは思う。
 アロイスの言葉は的確なのでねたんだり理不尽を感じたりといったことはない。
 むしろ余計な時間を取られたくないのでキッパリと言ってくれた方が楽だ。
 いや、そこでハッキリキッパリ言い放つのがアロイスではなかろうか?
「無駄にはならないと思うけど……」
「けど?」
「実践で鍛えた方がいいと思うけど? その方が手に馴染むし」
「そっか」
「起動するのも慣れた方が発動早くなるよ?」
 まぁたしかにアロイスの言うことは尤もだ。
 一文字間違っただけでも起動できない。
 慣れは確かに必要だ。
 そんなことを話しながら歩いていると――
「ちっ! この化け物が!」
 容赦ない罵倒が響き渡った。
 何事かと周囲を見回すと――
 一人の少女が数人の男たちに囲まれていた。
「あれ……あの子――」
 それを見たアロイスは何事か呟いた。
 だが、そんなことに構ってはいられない。
 だって、大勢が一人を囲むなんて、ロクなことじゃない。
 持ち前のお人よしな性格が、少女を見捨てられない。
 飛び出していくヴァルターを見ながらアロイスは微笑んだ。
「ホント……あのお人よしは天然記念物ものだよね」
 今のご時世、他人に構っていられないというのが実状だというのに――
 だからこそ、アロイスも彼にグリモワールを渡す決心がついたわけだが――
「何やってるんだよ! オマエたち!!」
 少女と男たちの間に割って入った。
「は? 他所もんは引っ込んでな!」
「そんなこと出来るはずがないだろう? こんな幼気な少女に寄ってたかって――」
 そう言ったヴァルターを、彼らは声に出して笑った。
「はっはははははは!!!」
「何が可笑しい!?」
 いきなり笑われたら意味が分からない。
 少女はキツい眼差しで男たちを睨んでいる。
「何も知らないくせに、口を出すな!!」
「何を――!」
「こいつは化け物なんだよ!!」
 化け物――
 こんな少女に冠するにはふさわしくない言葉だ。
「魔獣なんか引き連れやがって――」
 吐き捨てるように放った言葉――
「魔獣?」
「そうさ! こいつは疫病神だ!」
「実際、町を襲わせてるのもこいつかもしれないしな」
 悪意ある言葉……
「ふざけるな! そんな証拠がどこにある!!」
 ヴァルターは男たちに喰ってかかる。
 このままでは乱闘は必至だ。
 どうしようか考えをめくらせながら彼らに近づく。
 基本的に魔獣は魔霊の言うことは聞いてもヒトの言うことは聞かない。
 それに例外はない。
 なのにどうして彼らはそんなことを言うのだろうか?
 そう思いながら空を見上げるアロイス。
 大きな鳥が目に留まった。
 そして理解する。
 この現状を。
 仕方がないと、片付けるには重すぎる。
 アロイスは迷わず彼らに近づいた。
「うるせー!! こんや奴いない方がいいんだよ!!!」
「なっ!?」
 暴言を吐き、手に持っていた棍棒を振り上げる。
 ヴァルターは咄嗟に少女を庇おうと前に出た。
 しかし、その棍棒が振り下ろされるよりも早くアロイスが言葉を放った。
「誰が化け物だか、わからない光景だね」
 その言葉に手が止まり、新たに現れたアロイスに視線が移動する。
「んだ、テメエ――」
「下品な言葉遣いだね。本当に、はたから見ればキミ達の方が余程化け物だよ」
「ロイ!?」
 アロイスはいつもの調子で遠慮なく言い放った。
 だが、それは男たちを無駄に煽るだけだ。
「全く……ヴァルター君は状況を鑑みずに動くねぇ」
「うっ――」
 それに何も言えないヴァルター。
 怒られるだろうかと身構えたが、アロイスから出たのは全く違う言葉だった。
「それで、下品な言葉は聞きたくないからとっとと消えてくれない?」
 ニッコリ笑顔で挑発的なことを言い放った。
 だが、丸腰の貴族風の男にガラの悪い男たちが言うことを聞くはずもない。
「うるせぇ! 化け物の仲間は化け物だ!! まとめてやっちまえ!!!」
 ヴァルターは武器を出そうと身構えた。
 それを制するアロイス。
「やれるものならどうぞ?」
 不敵に微笑んだ。
 何を言っているんだとヴァルターは焦る。
 やるに決まっている。
 この手の相手には話は通じないのは分かりきっていることだ。
 それなのに、アロイスは平然と言い放ったのだ。
 だが、次の言葉で空気が硬まった。
「魔導師を相手にして生きて帰れる保証はないけどね」
「なっ?!」
「さて、どうする?」
 いつになく勝気な瞳が男たちを射抜いた。




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