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黒い十字架-Schwarz Kreuz-というサイトに設置しているブログです。 内容は黒い十字架の看板キャラによる小話などです。

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Capriccio 2.人間不信

 アロイスが暴漢を追い払った。
 それも言葉のみで、だ。
 力をふるわなかったアロイス。
 アロイスはヴァルターに諭す。

 揉め事は起こさないが吉と……











 男たちはアロイスの気迫に怯え、逃げるように去って行った。
 ただし、捨て台詞を吐いて。
「ちっ! 興が削がれた。今日は見逃してやる」
 見逃されたのはどちらの方か――
 そんなの考えるまでも無い。
 男たちの方だ。
 アロイスがやろうと思えば一瞬で片がついたろう。
 グリモワールである大鎌を軽々と振り回すアロイスなら、素手でもかなり強そうだ。
 わざわざ脅しをかけるまでもない。
 完膚なきまでに叩き潰せただろう。
 だが、アロイスはあえてそれをしなかった。
「ロイ、なんで――」
 そんなヴァルターの疑問を正確に読み取ったアロイスは告げた。
「こんなところで余計な騒ぎを起こさない方が吉だからだよ。ヴァルター君」
「でも――」
 ヴァルターの言いたいこともわかる。
 理不尽な言葉を投げられ、暴力を振るわれそうになっていた少女を護るのは、確かに正当防衛だ。
 だが、状況が悪い。
「人間に区別なんて出来るわけがないからねぇ……」
 アロイスは溜息をついて少女を見つめた。
「こんにちは」
 そんなアロイスの言葉を聞いて慌ててヴァルターは少女に声をかけた。
「大丈夫だった!?」
 だが、少女は何も言わない。
「怪我はない?」
 無言だ。
「五月蠅い!」
 少女は助けられたお礼どころか、こちらを睨んできた。
「え?」
 戸惑うヴァルター。
 全身から敵意を放つ少女に面食らったようだ。
 助けたのにどうしてそんな目で見られるのかがわからないのだろう。
 だが、アロイスはそれに心当たりがあった。
 少女の態度は少々問題があるかもしれない。
 だが、この少女が遭って来た環境を思えば、それはしかたのないことだろうと思える。
「近寄るな!」
 全身で威嚇してくる。
「何も知らないくせに!」
 それはあの男たちも言っていたことだ。
 ヴァルターには訳がわからない。
「そうだね」
 アロイスはそう話しながらも空を見た。
 少女はそれに釣られて空を見た。
 そして気付く。
 大きな鳥が飛んでいることに。
 少女の顔がこわばった。
「でも、ボクは知っているよ」
 少女は、何も言わない。
「あれは、キミの知り合いだろう?」
 アロイスの言葉に驚いたのはヴァルターの方だった。
「あれが!?」
「だから、何?」
 鋭い視線はやまない。
「ボクはアレが何か知っている」
「えっ?」
 少女が初めて困惑した表情を浮かべた。
「知っているよ。あれが魔獣で無いことぐらい」
 アロイスはこれ以上ないくらいのいい笑顔を浮かべていたが、少女は首を振った。
「知らない」
「ボクはキミをわかってあげられるよ?」
「五月蠅い!!」
 差し出された手を振り払った。
「信じない! 信じないんだからぁ!!」
 悲痛な叫び声が響く。
「どうせ、どうせアナタたちも一緒なんだから!」
「そんなこと――」
「嘘! 大人は皆嘘吐き!」
 耳に痛い言葉だ。
 アロイスはから笑いした。
 するしかない。
「どうせ最後には裏切るの! 皆そう! 所詮口だけなんだからぁ!!!」
 そんな少女の態度に何も言えなくなるアロイス。
「皆……皆……大っきらい!!!!」
 少女はそう言い放つと町とは反対方向に走って行った。
 それを見て思う。
「町に居場所がないんだろうね」
「それは――」
 あの男たちの態度を見ていれば、分かる。
「他の者たちも、きっとあんな態度なんだよ」
「あいつらだけじゃないの?」
「恐らく、ね」
「そんな……」
 ヴァルターは悲痛な顔をした。
 お人よしだ。
「どうして――」
 最初から最後までさっぱり原因がわからなかったヴァルターが呟いた。
「知らなければ理解できないことだから。それにしても――」
 アロイスは少女が走り去って行った方向を見つめた。
「あれって完璧な人間不信だよね」
 どう見てもそうだ。
「仲良くなれるかなぁ――」
 ヴァルターは微妙な顔をした。
「あの子と? それは――」
「そうだよね……」
 難しそうなのはわかっている。
 そんなことは……
 でも――
「あの子はボクと同じだから」
「ロイと、同じ?」
 ヴァルターはアロイスを見つめた。
 アロイスの言うことが理解できないのはいつものことだ。
 少々変わっているとはいえ、アロイスは社会不適合者ではない。
 ちゃんと生活出来ている。
 そんなヴァルターの疑問にアロイスはあっさりと答えを言った。
「あの子はボクと同じエルフだよ」
「え?」
「耳が尖っていたの、気がつかなかった?」
 頭に血が上っていたヴァルターはそこまで気がつかなかった。
「よく、見てるね……」
「気をつけるといい。冷静さを欠けばその先に待っているのは…………死だ」
「うっ――」
 確かにその通りだ。
 特に、アロイスが言うと説得力がある。
「ボクみたいにハイエルフじゃなさそうだけど……」
「……それって見ただけでわかるの?」
「それなりに、ね」
 そう言って考え込んだ。
「ハーフ……かなぁ? 魔力は高そうだった。ハイエルフには及ばないけど……でもエルフよりは強そうなんだよね。う~ん――」
 本当によく見ている。
「まぁ……取り敢えず確実にエルフだよ」
 そして町に視線をやった。
「さて、宿探しでも始めようか」
「え? 放っておくの?」
 アロイスの答えは意外だった。
 珍しく気にしているようだったから、てっきり追うのかと思っていた。
「そのつもりはないよ?」
 今はね、と告げる。
「今は?」
「だって、ヴァルター君、ついてこれてないでしょ?」
 確かにその通りだ。
 何故、あんな少女が虐げられているのかわからない。
「あの子はここにいるべきじゃない。でも、そう簡単には無理。だから、この町で長期滞在を覚悟しないとね」
 そのための宿探しだと言われて、納得する。
「食事が美味しい場所を探さないと」
 マズイ料理が出るような宿屋に長期滞在はしたくない。
 絶対に――
 そのために、宿探しは手が抜けない。




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