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黒い十字架-Schwarz Kreuz-というサイトに設置しているブログです。 内容は黒い十字架の看板キャラによる小話などです。

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Capriccio 4.クラオト
 アロイスは突然特殊空間に向かい、何かを持ってきた。
 ヴァルターはそれを始めてみた。
 それはアロイスが大事に育てているもので……










 道のりは遠そうだが、やるしかない。
 だが、そう簡単にはいかない。
 どうすればいいのか?
 しばらくアロイスは考え込んだ。
 いいアイデアなど全く浮かばないヴァルターはアロイスの邪魔をすることなく大人しくしている。
 邪魔をするのは得策ではない。
 何しろヴァルターは人間だ。
 ハイエルフであるアロイスの方がいい考えが浮かぶだろう。
 そして――
 何事か考えていたアロイスだが、突然ソファーから立ち上がると壁に手をついた。
〈我が望みし常世の空間……我が前に有為を喚び為す門を開け――〉



   ――ラオム・ゲシェフト・リーフェンシュタール!


 いきなり特殊空間を開いたアロイスは慌ただしく中に入って行った。
 ヴァルターは完全においてけぼり状態だ。
 何か良いアイデアでも浮かんだのだろうか?
 そう思って大人しく待っていた。
 そして、しばらくすると何か鉢を抱えて帰って来た。
「ロイ?」
「ヴァルター君」
 じゃーん! と、鉢を差し出して来た。
「葉っぱ?」
 アロイスが差し出してきた鉢に植わっているのは少々変わった植物だった。
 その植物は人の手のように五つに分かれており、細くギサギザの葉をしている。
 形状はどこにでもありそうなごく普通の葉っぱだ。
 では一体何が変わっているのか?
 それは……色だ。
 その植物は――
 
 空色だった。
 
 自然界では見たことがない。
 凄い色の葉だと、ヴァルターは思う。
「これって、一体――」
 恐る恐る尋ねると、
「これが聖獣の主食、クラオトの葉」
「え!? このどぎつい色の葉が?」
 聖獣はこれを食べて生きて行くらしい。
「これだけで?」
「普通に生えてる植物の葉も食べられるけど……」
「けど?」
「この葉を食べなければ弱体化していずれは死んでしまうよ」
「重要なんだ……」
「うん。この葉に含まれてるある成分が聖獣にとっては必須なんだよ」
「そっか――」
 聖獣にとってはなくてはならない重要な葉。
 ヴァルターはアロイスが差し出しているクラオトをじっと見つめた。
 しかし、ヴァルターには全く美味しそうには見えなかった。
 だって、空色だ。
 空と同じ色……アロイスの瞳と同じだ。
 こんな葉が普通に森に生えていたら……浮く。
 確実に、浮く。
 今、鉢にたくさん生えているのは全て空色の葉だ。
「えっと、花は?」
 咲くのだろうか?
 咲くとしたら一体どんな色の……
 普通であることを期待した。
 が、それはあっさりと裏切られることになる。
「咲くよ。葉より少し色は薄いけど空と同じ色の花が」
「そう、なんだ」
 空色の植物のようだ。
 しかし、ヴァルターはこんなものが生えているのを見たことがない。
「始めて見る」
「それはそうだよ」
「え?」
「もう……自然界に生えることはないから」
「それって、どういう……」
「この植物は瘴気に弱いんだ」
 今のこの世界は魔獣が闊歩する世界。
 場所により魔霊まで出る。
 そんなこの世界で瘴気のない場所はない。
 町でさえ気をつけないといけないのだ。
「じゃあ……」
「これは人工的にエルフが育てているものだよ」
 エルフたちが聖獣たちの為に育てているものだ。
「エルフは今でも聖獣と共に暮らしているからね」
 郷には普通に自生しているらしい。
 でも、聖獣の保護下から離れればもう育たない。
 アロイスも育てているようだ。
「自生しているのは手がかからなくていいんだけど。人工的に育てるのってかなり手間がかかるんだよね」
 一日とて目が離せないらしい。
 いわれてみればアロイスは日に一回は必ず特殊空間に入っている。
 クラオトの面倒をみるためだったのだろう。
「でも、アロイスって、聖獣と仲良いの?」
 アロイスの側に獣の気配など微塵もなかったはずだ。
 いればさすがにヴァルターだって気付く。
「悪くはないけど、ボクは一人でも大丈夫だから一緒にいなくても平気」
 よくは知らないが、相当強いだろうことは予想がつく。
「エルフって、そんなに肉体派?」
「まさか」
 やはりアロイスは変わり者のようだ。
「郷にいないエルフは基本的に友好的で変わり者だよ」
 人間を信じないエルフが増え、郷から出ることはなくなったのだという。
「あの子と違って、あの子の両親は人間に対して友好的だったんだろうね」
 それも今は過去形だ。
「ん? じゃあなんでロイはその葉っぱ育ててるの?」
 確かに、聖獣の主食であるクラオトなどいらないだろう。
「聖獣の為に持ってるわけじゃないよ?」
 それを聞いたヴァルターは嫌な予感がした。
 どぎつい色の葉だ。
 だが――
「人間も、食べるの?」
 この色の葉を食べるのだろうか?
 ヴァルターだったら……食べたくない。
 全く、食欲が湧かない。
 炒めたら、このドギツイ色彩は薄れるだろうか?
 そんなヴァルターの思考を読んだのか、アロイスは笑って告げた。
「人間が食べたらお腹壊すよ」
 良かった。
 人間用ではないようだ。
 では?
「誰が食すんだ?」
「このクラオトの葉を食べるのは聖獣。そして、花や実を食べるのが精霊」
「精霊?」
 グリモワールの力の源だ。
「そう。魔獣の対が聖獣であるように、魔霊の対は精霊なんだよ」
「精霊……そっか……精霊も人が触れられないって――」
 触れないのはどちらも一緒だ。
「そう。人間が聖獣と一緒に暮らしていた時は精霊も一緒に暮らしていたんだよ」
「じゃあ、人間のせいで、人間を見限ったから――」
「聖獣を虐げた人間を嫌って人間の前には姿を現すことはないね」
 そしてヴァルターは気付く。
 アロイスは聖獣の為に持っているわけではないと言った。
 しかし、この葉は人間は食べられない。
 当然、ハイエルフであるアロイスにも無理だろう。
 だが、精霊もこの植物を食すという。
 なら、アロイスがこれを持っているのは?
「精霊? ロイは精霊と仲がいいの?」
 アロイスはニッコリと微笑んだ。
「ボクがこれを持っているのは精霊たちのため」
「どうして?」
「勿論、精霊たちと仲良くなるためだよ。ヴァルター君」
 精霊と仲良くなるためにわざわざ育てているのだという。
「一体何のために?」
 ヴァルターが尋ねてもニッコリと微笑んで誤魔化された。
 相変わらずアロイスは謎に満ちている。




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